P波とS波の違い
SF映画では、探査船がマグマの海をくぐり抜け、地球の中心へ向かう場面がよく描かれます。
でも現実の人類が掘った最深記録は、わずか約12kmほど。
地球の半径は約6,371kmなので、これは地球をリンゴにたとえると、皮すら十分に貫けていない深さです。
では、科学者たちはどうして地球の奥深くに、鉄やニッケルを主成分とする核があると知ったのでしょうか。
その答えが、今回の主役である地震波です。
中でも、P波とS波の性質の違いが、地球内部の構造を解き明かす大きな手がかりになりました。
地球の中を「掘らずに見る」方法
スイカが熟しているか確かめるとき、表面を軽くたたいて音を聞くことがありますよね。
地球内部を調べる方法も、それに少し似ています。
地震が起こると、地下で発生したエネルギーが波となって四方へ広がります。
この波が地震波です。
地震波は、通過する物質の硬さや密度によって速度や進み方が変わります。
つまり、地震波の動きを詳しく調べることで、直接見ることのできない地球の内部を推理できるのです。
日本は地震が多い国です。
そのため、地震は怖い自然災害である一方、地球の内部を知るための重要な情報も運んでいます。
まるで地球自身が発する巨大な超音波検査のようなものです。
地震波には大きく2種類ある
地震波は大きく分けると、次の2つに分類されます。
| 種類 | 進む場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 実体波 | 地球内部を進む | 地球内部の構造を調べる手がかりになる |
| 表面波 | 地表付近を進む | 建物や地面に大きな揺れを起こしやすい |
今回中心になるのは、地球内部を通る実体波です。
実体波には、さらに2つの代表的な波があります。
それがP波とS波です。
P波とは何か
P波の「P」は、Primary Waveの頭文字です。
日本語では「初期微動」と関係する波として説明されることもあります。
名前の通り、地震計に最初に届く波です。
P波は、波の進む方向と振動する方向が同じです。
バネを前後に押したり引いたりすると、縮んだ部分と伸びた部分が交互に伝わっていきますよね。
あの動きに近いのがP波です。
このような波を縦波と呼びます。
P波の大きな特徴は、通過できる物質が多いことです。
P波は、固体だけでなく、液体や気体の中も進むことができます。
岩石の中も、マグマのような液体状の物質も、水も空気も通ることができる、かなり万能な波です。
そのため、地球内部を広く調べるうえで非常に重要な存在になります。
S波とは何か
S波の「S」は、Secondary Waveの頭文字です。
P波のあとに届くため、Secondary、つまり「二番目の波」と呼ばれます。
S波は、波の進む方向に対して、振動する方向が垂直です。
ロープを上下に振ると、波は前へ進みますが、ロープ自体は上下に揺れますよね。
このような動きがS波です。
このタイプの波を横波と呼びます。
S波はP波よりも遅く進みます。
しかし、揺れ方が大きく、建物を横方向に強く揺さぶるため、被害につながりやすい波でもあります。
そして何より重要なのは、S波は固体の中しか進めないという点です。
液体や気体の中では、S波は伝わることができません。
この性質が、地球の外核が液体であることを証明する決定的なヒントになりました。
P波とS波の違い
| 項目 | P波 | S波 |
|---|---|---|
| 英語名 | Primary Wave | Secondary Wave |
| 波の種類 | 縦波 | 横波 |
| 到着順 | 最初に届く | P波のあとに届く |
| 速度 | 速い | P波より遅い |
| 通過できるもの | 固体・液体・気体 | 固体のみ |
| 揺れの特徴 | 小さく短い揺れになりやすい | 横揺れが大きく、被害が出やすい |
地震のとき、最初に「ドン」と小さく感じる揺れがP波です。
そのあとに「グラグラ」と大きく揺れるのがS波です。
もちろん、大地震ではさらにあとから来る表面波が大きな被害をもたらすこともあります。
ただ、P波とS波の到着時間の差は、地震の震源までの距離を推定するうえでも使われます。
日本の緊急地震速報も、速く届くP波を先に検知し、強い揺れが来る前に警報を出す仕組みを利用しています。
地球内部を知るカギは「S波が消える場所」
ここで、いちばん大切なポイントを整理します。
P波は、固体・液体・気体を通れます。
S波は、固体しか通れません。
この違いを世界中の地震計で観測したことで、科学者たちは地球内部にいくつもの層があることを発見しました。
もし地球が最初から最後まで同じ硬さの岩石でできているなら、地震波はもっと単純に進むはずです。
しかし実際には、ある深さで急に速くなったり、曲がったり、届かなくなったりしました。
地震波は、地球内部の境界にぶつかるたびに進み方を変えていたのです。
まるで、光が空気から水へ入るときに屈折するように。
この小さな変化を読み解いたことで、地球の中に地殻・マントル・外核・内核という層があることが分かってきました。
コリのひとこと
地球の奥深くには、誰も直接行ったことがありません。
それなのに私たちは、そこに液体の外核があり、さらに中心には固体の内核があることを知っています。
これは本当にすごいことです。
目で見るのではなく、波の届き方を聞き分ける。
地震波は、地球が私たちに送ってくれる地下からのメッセージなのかもしれません。
次回は、このP波とS波がどのようにしてモホ面・外核・内核の発見につながったのかを、もう少し深く見ていきます。
モホ面・外核・内核はこうして発見された
地震波の研究が本当にすごいのは、目に見えない地下数千キロの世界を「推理」で解き明かしたことです。
科学者たちは世界中に設置された地震計のデータを集め、P波とS波がどのように伝わるのかを何十年も分析しました。
すると、ある深さで地震波の速度が急に変化したり、進行方向が曲がったり、さらには突然消えてしまう現象が見つかったのです。
この小さな違和感こそが、地球内部の構造を知る最大の手掛かりになりました。
モホ面の発見
1909年、クロアチアの地震学者アンドリヤ・モホロビチッチは、地震波を分析している最中に不思議な現象を発見しました。
震源から遠く離れた観測所のほうが、予想よりも早くP波を受信していたのです。
普通なら遠いほど時間がかかるはずです。
そこで彼は、地下のある深さから地震波が非常に速く進める層に入っているのではないかと考えました。
その推測は正しく、地球内部には密度の高い岩石でできた巨大な層が存在していたのです。
この境界は現在、
モホロビチッチ不連続面(モホ面)
と呼ばれています。
モホ面より上が地殻、
下がマントルです。
私たちが暮らしている地殻は意外なほど薄く、大陸では約30〜70km、海洋では5〜10kmほどしかありません。
その下には約2,900kmもの厚さを持つ巨大なマントルが広がっています。
S波が突然消えた理由
さらに大きな発見がありました。
1914年、ドイツの地球物理学者ベノ・グーテンベルクは、世界中の地震データを調べる中で奇妙な現象を見つけます。
ある地域では、
S波がまったく届かない
のです。
これをS波のシャドーゾーン(地震波の陰)と呼びます。
なぜでしょうか。
答えはS波の性質にあります。
S波は液体を通れません。
つまり、地下約2,900kmより深い場所には、S波を止めてしまう巨大な液体層が存在すると考えられたのです。
こうして発見されたのが、
液体の外核
でした。
外核は主に鉄とニッケルが高温で溶けた状態になっています。
マントルと外核の境界は、
グーテンベルク不連続面
と呼ばれています。
P波はさらに奥を教えてくれた
一方、P波は液体も通過できます。
しかし、液体に入ると速度が落ち、進行方向も大きく曲がります。
この屈折のおかげで、P波にも「届きにくい場所」ができました。
科学者たちは、このP波の曲がり方を詳しく分析することで、
外核の大きさや厚さまで計算できるようになりました。
つまり、地震波は単に「ある・ない」を見るだけではありません。
速度の変化や曲がる角度まで含めて、地球内部の地図を描いていたのです。
地球の中心には固体があった
長い間、科学者たちは
「地球の核は全部液体」
だと考えていました。
しかし1936年、
デンマークの女性地震学者インゲ・レーマンが、その常識を覆します。
彼女は非常に精密な地震記録を分析し、
液体の外核を通過したP波が、
地球中心付近で再び速くなることを発見しました。
これは、中心部に液体よりも密度が高い固体が存在することを意味していました。
こうして発見されたのが、
内核です。
外核と内核の境界は、
レーマン不連続面
と呼ばれています。
地球内部の構造
| 層 | 深さ | 状態 | 主な成分 |
|---|---|---|---|
| 地殻 | 約5〜70km | 固体 | 花こう岩・玄武岩など |
| マントル | 約70〜2,900km | 固体(ゆっくり流動) | ケイ酸塩鉱物 |
| 外核 | 約2,900〜5,150km | 液体 | 鉄・ニッケル |
| 内核 | 約5,150〜6,371km | 固体 | 鉄・ニッケル |
地震波研究は私たちの生活にも役立っている
地震波の研究成果は、学術研究だけではありません。
日本では緊急地震速報にも活用されています。
P波は速く、
S波は遅い。
この時間差を利用して、
大きな揺れが到達する数秒〜数十秒前に警報を出しています。
このわずかな時間で、
- 新幹線の緊急停止
- エレベーターの最寄り階停止
- 工場設備の自動停止
- 人が机の下へ避難する
といった行動が可能になります。
数秒しかなくても、人命を守る非常に重要な技術なのです。
今回の記事では、P波とS波から地球内部の構造がどのように明らかになったのかをご紹介しました。
続けて、「地球の内部構造を完全解説|地殻・マントル・核の秘密」もぜひご覧ください。
それぞれの層の特徴や構成物質、温度、役割まで詳しく解説しているので、地球科学への理解がさらに深まります。
コリのひとこと
目に見えない世界を知るために、
人類は地球を深く掘り進めたわけではありません。
小さな揺れを何十年も観測し、
一つひとつ積み重ねながら、
地球の中心にまでたどり着きました。
科学とは、派手な発見だけではありません。
誰も気づかない小さな違和感を見逃さず、
地道に積み重ねていくことで、
世界の本当の姿が見えてくるのだと改めて感じます。
P波とS波の違い 参考資料
より詳しく学びたい方は、以下の資料もおすすめです。
- 米国地質調査所(USGS)Earthquake Hazards Program
- IRIS(Incorporated Research Institutions for Seismology)Education
- 日本地震学会 公開資料
- 気象庁 地震・津波に関する解説
- Inge Lehmann (1936) P’
- 地球科学・地学の大学教科書
P波とS波の違い よくある質問(Q&A)
Q1. P波とS波では、建物により大きな被害を与えるのはどちらですか?
A.
一般的にはS波です。
P波は縦方向の小さな振動が中心ですが、S波は地面を横方向へ大きく揺らします。そのため建物にかかる力が大きくなり、構造物への被害も増えます。
なお、大規模地震では、その後に到達する表面波が最も大きな被害をもたらす場合もあります。
Q2. なぜS波は液体を通ることができないのでしょうか?
A.
S波は横方向へ力(せん断力)を伝えながら進みます。
固体は粒子同士がしっかり結び付いているため、この力を伝えられます。
一方、液体や気体は形が自由に変化するため、横方向の力を伝えられず、S波は途中で消えてしまいます。
この性質が、地球の外核が液体であることを証明する決定的な証拠となりました。
Q3. 地震波の研究は私たちの生活でどのように役立っていますか?
A.
最も身近なのは緊急地震速報です。
速度の速いP波を先に観測し、その後に到達するS波や表面波より前に警報を出します。
この数秒から数十秒の時間があることで、新幹線の停止やエレベーターの制御、工場設備の停止、そして人々の避難行動につながっています。

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