海底ケーブルと地震リスク
コリです。
スマホで動画を見たり、海外ニュースを読んだり、クラウドに写真を保存したり。
今の私たちは、インターネットをまるで空気のように使っています。
でも、その通信の多くは空を飛んでいるわけではありません。
実は、世界中の国際通信の中心は、海の底にあります。
大陸と大陸、島国と世界をつないでいるのは、海底ケーブルと呼ばれる光ファイバー通信網です。
日本のような島国にとって、これは特に大切な話です。
海外のウェブサイトを見ることも、国際決済をすることも、クラウドサービスを使うことも、海底に敷かれたケーブルに支えられています。
ところが、この海底ケーブルはとても重要なインフラでありながら、地震に対して弱い面を持っています。
しかも問題は、地震の揺れだけではありません。
海底地すべり、混濁流、海溝、海底火山、津波、ケーブル陸揚げ局の被害など、いくつものリスクが重なります。
今回は、
なぜ海底ケーブルは地震に弱いのか
海の底で何が起きると通信が切れるのか
日本やアジアの通信インフラにどんな意味があるのか
この3つを中心に、わかりやすく整理していきます。
海底ケーブルとは何か
海底ケーブルとは、海の底に敷設された通信ケーブルのことです。
中には細い光ファイバーが入っていて、データを光の信号として送ります。
動画、メール、国際電話、金融取引、クラウドデータ、企業の通信など、多くの情報がこのケーブルを通っています。
人工衛星で通信しているイメージを持つ人もいますが、実際の国際インターネット通信では、海底ケーブルの役割が非常に大きいです。
なぜなら、海底ケーブルは衛星通信よりも大容量で、遅延が少なく、安定した通信ができるからです。
つまり海底ケーブルは、現代社会の「見えない大動脈」といえます。
| 構成部分 | 役割 |
|---|---|
| 光ファイバー | データを光信号で送る |
| 銅導体 | 中継器へ電力を送る |
| 絶縁層 | 海水の侵入を防ぐ |
| 鋼線 | 外部の衝撃から守る |
| 外装シース | 腐食や摩耗を防ぐ |
| 中継器 | 長距離通信の信号を増幅する |
深い海では、人間の活動が少ないため、ケーブルは比較的細く作られることがあります。
一方、海岸に近い浅い海では、船の錨や漁業の網に引っかかる危険があるため、より厚く保護されたケーブルが使われます。
しかし、どれだけ丈夫に作っても、海底そのものが大きく動くと話は変わります。
なぜ海底ケーブルは地震に弱いのか
海底ケーブルが地震に弱い理由は、単に「揺れるから」ではありません。
本当に怖いのは、地震が海の底で別の災害を引き起こすことです。
たとえば、海底の斜面が崩れたり、堆積物が一気に流れ出したり、断層がずれて海底地形そのものが変わったりします。
| リスク要因 | 海底ケーブルへの影響 |
|---|---|
| 海底地震 | 海底が揺れ、ケーブルに力がかかる |
| 海底地すべり | ケーブルが引っ張られたり埋まったりする |
| 混濁流 | 土砂を含んだ流れがケーブルを切断する |
| 断層変位 | ケーブルの通り道がずれる |
| 津波 | 浅い海域や陸揚げ局に被害を与える |
| 海底火山 | 噴出物や地形変化でケーブルを傷める |
ここで特に重要なのが、混濁流です。
混濁流とは、泥、砂、岩のかけら、水が混ざって、海底を高速で流れ下る現象です。
簡単にいえば、海の底で起きる土石流のようなものです。
地震によって海底の斜面が崩れると、堆積物が水と混ざります。
それが海底の谷や斜面を一気に流れ下ると、ケーブルを引っ張ったり、押し流したり、切断したりすることがあります。
つまり、海底ケーブルは地震の震源の真上でなくても被害を受けることがあります。
地震がきっかけとなり、混濁流が遠くまで走ることで、複数のケーブルが時間差で切れることもあるのです。
地震そのものより怖い「海底地すべり」
海底ケーブルの被害を考えるとき、地震は「始まりのスイッチ」のようなものです。
もちろん、断層のずれによってケーブルが直接傷つくこともあります。
しかし、多くの場合で深刻なのは、地震後に発生する海底地すべりや混濁流です。
日本周辺にも、海溝、海底斜面、海底谷が多く存在します。
特に日本列島は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北米プレートが関係する複雑な地震帯にあります。
そのため、海底ケーブルのルート設計では、単に距離が短いかどうかだけでなく、海底地形や地震履歴を見る必要があります。
危険になりやすい場所は、次のようなところです。
| 海底地形 | 危険な理由 |
|---|---|
| 大陸斜面 | 堆積物が崩れやすい |
| 海底峡谷 | 混濁流の通り道になりやすい |
| 海溝周辺 | 巨大地震が起きやすい |
| 火山島周辺 | 噴火や斜面崩壊のリスクがある |
| 河口沖 | 堆積物が多く不安定になりやすい |
地図で見ると、ケーブルはただ海を横切っている線に見えるかもしれません。
でも実際には、地質リスクのある地形を避けながら設計される、とても繊細なインフラです。
実例1:2006年台湾南部地震とアジアの通信障害
海底ケーブルと地震リスクを語るうえで有名なのが、2006年に台湾南部の海域で起きた地震です。
この地震のあと、複数の海底ケーブルが損傷しました。
その影響で、アジア各地のインターネット接続や国際通信に大きな障害が発生しました。
ここで重要なのは、1本のケーブルだけが切れたのではないという点です。
複数のケーブルが、深い海の区間で相次いで損傷しました。
原因として注目されたのが、地震によって発生した海底地すべりと混濁流です。
この事例からわかることがあります。
海底ケーブルを複数敷いていても、それらが同じ海底峡谷や同じ危険地帯を通っていれば、同時に被害を受ける可能性があるということです。
つまり、本当の意味でのバックアップとは、ただ本数を増やすことではありません。
ルートそのものを分散させることが重要なのです。
実例2:2022年トンガ火山噴火と通信断絶
もう一つ印象的な事例が、2022年のトンガ海底火山噴火です。
南太平洋のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山が大規模に噴火し、津波、火山灰、衝撃波、海底地形の変化を引き起こしました。
この影響で、トンガと外部世界をつなぐ海底ケーブルが損傷しました。
一時、国際通信が大きく制限され、復旧にも時間がかかりました。
このケースは、地震だけでなく、海底火山や津波も海底ケーブルにとって大きな脅威になることを示しています。
特に島国では、海底ケーブルへの依存度が高くなります。
もし主要なケーブルが切れると、インターネットだけでなく、次のような分野にも影響が出ます。
- 災害対応
- 病院や行政サービス
- 銀行決済
- 航空・物流
- 観光業
- 家族との連絡
- 企業のクラウド利用
このように、海底ケーブルは単なる通信設備ではありません。
社会全体を支えるライフラインなのです。
海底ケーブルはどれくらい故障するのか
海底ケーブルの故障は、決して珍しいものではありません。
ただし、故障原因の多くは地震ではなく、人間の活動です。
特に浅い海では、漁業の網や船の錨による損傷が多いとされています。
しかし、地震による被害は性質が違います。
発生頻度は高くなくても、1回の地震で複数のケーブルが同時に影響を受けることがあるからです。
| 原因 | 特徴 |
|---|---|
| 漁業活動 | 頻度が高く、浅い海で多い |
| 船の錨 | 港や沿岸部で起こりやすい |
| 地震 | 頻度は低いが広域障害につながる |
| 海底地すべり | 深海区間のケーブルを切ることがある |
| 火山活動 | 島しょ部で大きな被害になりやすい |
| 意図的な損傷 | 安全保障上のリスクになる |
つまり、海底ケーブルのリスクを見るときは、
「よく起きる事故」と
「一度起きると大きな影響を出す事故」
を分けて考える必要があります。
地震や海底地すべりは、後者にあたります。
海底ケーブルが切れたらどう修理するのか
海底ケーブルの修理は、家庭の電線を直すような作業ではありません。
まず、通信事業者はどのあたりで信号が途切れているのかを調べます。
光信号や電気的な測定によって、おおよその故障位置を推定します。
その後、専用のケーブル修理船が現場へ向かいます。
修理船は、海底にあるケーブルを専用の装置で引き上げます。
損傷した部分を切り取り、新しいケーブルと接続し、テストを行い、防水処理をして、再び海底へ戻します。
深い海では、この作業がとても難しくなります。
理由はたくさんあります。
- 水深が深い
- 天候に左右される
- 海流が強い
- 修理船の数が限られている
- 光ファイバーの接続に高い精度が必要
- 国際的な許可が必要になる場合がある
- 復旧まで通信の迂回が必要になる
そのため、海底ケーブルの安全性は、ケーブルの強度だけでは決まりません。
故障時にどれだけ早く迂回できるか、どれだけ早く修理できるかも重要です。
ワンポイント:海底ケーブル障害の記事を読むときは、「どの海域で切れたのか」「海底峡谷や海溝の近くか」「代替ルートがあったのか」を見ると、被害の深刻さがわかりやすくなります。
日本にとって海底ケーブルが重要な理由
日本は四方を海に囲まれた島国です。
そのため、国際通信の多くは海底ケーブルに依存しています。
日本からアメリカ、東南アジア、台湾、韓国、オーストラリア、ヨーロッパへ向かう通信も、複数の海底ケーブル網によって支えられています。
一方で、日本周辺は世界有数の地震帯でもあります。
南海トラフ、千島海溝、日本海溝、琉球海溝など、巨大地震が想定されるエリアが複数あります。
このため、海底ケーブルの地震リスクは、日本にとってかなり現実的な問題です。
もちろん、通信事業者は冗長化やルート分散を進めています。
それでも、巨大地震や海底地すべりが複数の通信経路に影響を与える可能性はゼロではありません。
日本の読者にとって、海底ケーブルの話は遠い海の話ではありません。
災害、経済、安全保障、日常のネット利用とつながるテーマです。
ルート分散が大切な理由
海底ケーブルの安全対策で重要なのが、ルート分散です。
同じ地域にケーブルが集中していると、一つの地震や海底地すべりで複数のケーブルが同時に被害を受ける可能性があります。
たとえば、3本のケーブルがあったとしても、すべて同じ海底峡谷を通っていれば、本当の意味で安全とはいえません。
大切なのは、物理的に違う海域、違う海底地形、違う陸揚げ局を使うことです。
これにより、1本のケーブルが切れても、通信を別の経路へ逃がすことができます。
この考え方は、インターネットの世界では非常に重要です。
通信網は「切れないこと」よりも、「切れても止まらないこと」が大事だからです。
少し人間らしく考えてみると
このテーマを調べていると、私はいつも少し慎重な気持ちになります。
インターネットは、目に見えない便利な仕組みのように感じます。
でも実際には、海の底に置かれた物理的なケーブルによって支えられています。
海外にいる家族との通話。
クラウドに保存した写真。
ネット銀行の送金。
企業のデータ通信。
そのすべてが、地震の多い地球の上に成り立っているのだと思うと、少し見方が変わります。
便利なデジタル社会は、実はとてもアナログな線の上に乗っている。
この感覚は、忘れないほうがいい気がします。
海底ケーブルの地震リスクを減らす方法
海底ケーブルを地震から完全に守ることは難しいです。
地球そのものが動いている以上、リスクをゼロにはできません。
しかし、被害を減らすことはできます。
まず大切なのは、詳しい海底地形調査です。
ケーブルを敷く前に、海底の斜面、断層、堆積物、過去の地すべり跡を調べる必要があります。
次に重要なのが、物理的なルート分散です。
複数のケーブルを別々の地形に通すことで、同時被害を減らせます。
さらに、通信の自動迂回システムも必要です。
1本のケーブルが切れても、データが別の経路を通れるように設計しておくことが大切です。
また、陸揚げ局の耐災害性も欠かせません。
海底ケーブルは海の底だけで完結しません。
陸に上がる場所、つまりケーブル陸揚げ局が津波や停電に弱ければ、通信全体が止まる可能性があります。
最後に、今後注目されるのが、光ファイバーをセンサーとして使う技術です。
海底ケーブルを利用して、地震波や海底の振動を観測する研究も進んでいます。
将来的には、海底ケーブルが通信網であると同時に、地球の動きを観測するセンサー網になるかもしれません。
海底ケーブルと地震リスクの整理表
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 海底ケーブルの役割 | 国際インターネット通信の重要な通り道 |
| 地震に弱い理由 | 海底地すべり、混濁流、断層変位が起きるため |
| 特に危険な現象 | 混濁流と海底地すべり |
| 代表的な事例 | 2006年台湾南部地震、2022年トンガ火山噴火 |
| 修理が難しい理由 | 深海、天候、修理船、精密な接続作業が必要 |
| 対策 | ルート分散、冗長化、海底調査、陸揚げ局の耐災害化 |
海底ケーブルが地震に弱い理由を理解するには、ケーブルそのものだけを見るのでは少し足りません。
その下には、地殻・マントル・核へと続く大きな地球内部の構造があります。
特に海洋地殻は大陸地殻より薄く、プレート境界では沈み込み、拡大、断層運動が活発に起こります。
こうした地球内部の動きが、海底地震、海底地すべり、混濁流を引き起こし、結果として海底ケーブルにも影響を与えることがあります。
そのため、このテーマをより深く理解したい場合は、「地球の内部構造を完全解説|地殻・マントル・核の秘密」もあわせて読むと流れがつかみやすくなります。
マントルの動きがプレートを動かし、地殻に力が加わり、それが地震や火山活動につながる仕組みが見えてきます。
コリの考え
海底ケーブルは、ふだん私たちの目には見えません。
けれど、現代社会を支えるとても大切なインフラです。
インターネットは軽くて自由なものに見えます。
でも、その裏側には、海底に横たわる長いケーブルがあります。
そして、そのケーブルは地震、海底地すべり、津波、火山活動といった自然の力の中に置かれています。
だから私は、海底ケーブルの安全性で大切なのは「絶対に切れないケーブル」を作ることではないと思います。
それよりも、切れても社会が止まらない仕組みを作ることが大切です。
複数のルート。
複数の陸揚げ局。
通信の自動迂回。
災害時のバックアップ通信。
そして、地質リスクを考えた設計。
海底ケーブルは、単なる通信技術ではありません。
地球科学、災害対策、経済、安全保障がつながる、とても現代的なテーマです。
日本のような地震の多い島国では、なおさら意識しておきたいインフラだと思いました。
コリでした。
参考資料
- International Cable Protection Committee:海底ケーブルの保護と故障原因に関する資料
- U.S. Federal Communications Commission:海底通信ケーブルと国際通信インフラに関する資料
- U.S. Geological Survey:海底地すべり、海洋地質災害に関する解説
- Submarine Networks:台湾地震による海底ケーブル障害、トンガ海底ケーブル損傷に関する報告
- KIS-ORCA:海底ケーブルの保守・修理作業に関する資料
- Data Center Dynamics:トンガ国内海底ケーブル復旧に関する報道
- 海底光ファイバーケーブルを利用した地震・海洋観測に関する近年の研究
よくある質問
Q1. 海底ケーブルは地震が起きるとすぐに切れるのですか?
必ずすぐに切れるわけではありません。
地震の揺れそのものよりも、地震によって発生する海底地すべりや混濁流が大きな原因になることがあります。これらの流れがケーブルを引っ張ったり、埋めたり、切断したりします。
Q2. 海底ケーブルが切れるとインターネットは全部止まりますか?
地域によります。
複数のケーブルと迂回ルートがある地域では、通信速度の低下で済むこともあります。しかし、島国や接続経路が少ない地域では、インターネット、電話、銀行決済、行政サービスに大きな影響が出ることがあります。
Q3. 海底ケーブルの地震被害は防げますか?
完全に防ぐことは難しいです。
ただし、海底地形を詳しく調べ、危険な場所を避け、ルートを分散し、複数の陸揚げ局とバックアップ通信を整えることで、被害を大きく減らすことはできます。

#海底ケーブル #海底ケーブル地震 #海底通信網 #インターネットインフラ #海底地すべり #混濁流 #地震リスク #通信障害 #光ファイバー #コリサイエンス
👉 海底ケーブルと地震リスク あわせて読みたい
この記事が参考になった方は、下の記事もあわせて読んでみてください。
同じテーマを、より広く、より深く理解するのに役立ちます。
なぜヒマラヤ山脈は今も高くなり続けるのか|インドプレートとユーラシアプレートの衝突
環太平洋火山帯とは?地震・津波・火山噴火が集中する「リング・オブ・ファイア」の正体
氷河が溶けるとなぜ大地は隆起するのか|GIA(氷河性地殻均衡調整)が解き明かす地球の仕組み
毎日ひとつ知るだけで世界がもっと鮮やかになりますよ。
次の科学のお話でまた会いましょう — KoriScience